臨床研究

Clinical Research

臨床研究

患者さんのQOL(生活の質)の向上を目的に、分子整合栄養学と医療がタッグを組みながら、分子レベルでの病態の解明、予防法についての追求などのヒトを対象とした医学研究を行っていきます。

臨床研究01

全身の健康状態を評価する血液検査セット項目の確立

検査といっても血液検査、尿検査、便検査、唾液検査そして場合によっては身体を切除したり器具を使った侵襲的な検査など様々です。その中でも血液検査は、非侵襲的で多くの情報を得ることのできる検査であり、医療機関ではよく用いられる検査方法です。
しかし、保険診療内で行われる検査項目で本当に身体の状態を知ることができるのでしょうか?
当研究所はそこに着目し、全身の健康状態を知るために必要な検査項目について追及しました。

<分子整合栄養学における血液検査の目的>

  • ●予防目的:栄養状態を知る、臓器や器官の機能を知る、身体の障害の程度を知る
  • ●治療目的:病態の経時的変化を知る、病気の部位の拡がりを知る、治療方法の選択の参考

何か病気を発症してからの検査ではなく、あらゆる病気の発症の予測や予防のために身体の状態を可視化していくことが大事です。
当研究所では、創立当初より蓄積してきた臨床データを基に、全身をまんべんなく把握できる検査セット項目を「初診スクリーニング」として考案しました。血液だけでなく、尿・唾液検査を含む全69項目を調べることによって、全身の栄養状態の把握を可能とします。
また初診スクリーニング以外にも、病態に応じた検査項目についての追及も随時行っています。

初診スクリーニング

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結果を分析する際、項目単独でみるのではなく、それぞれの関連項目ごとにみていくことで重要であることが、数万件の血液検査データを追跡してきてわかってきました。

<検査項目の値の解釈(一例)>

全身のタンパク質の状態と炎症の度合いをみる項目
  • ・ALB:膠質浸透圧(血管内に水を保持するちから)のもととなるタンパク質で、ALB値は有効循環血漿量を反映し、炎症で低下しやすい
  • ・G (グロブリン)分画(ALB以外の血清タンパク質の総称):炎症に関連するタンパク質が多く含まれる
  • ・A/G (アルブミン・グロブリン比)
    炎症があるとA↓ 、 G↑ から、 A/G↓( 炎症が強いほど低下)
    病態が悪化すると、A↓↓ 、 G ↓ (悪液質の兆候)
  • ・CRP(C反応性タンパク質)
    炎症の度合いを経時的にみることで、生活習慣由来なのか、それとも深刻な病態由来なのかが把握できる。

タンパク栄養が悪いと、身体の予備能力が低下することから、全身の健康状態の把握にはからなずALBのチェックが必須となります。それと併せてCRPをみることで、全身のタンパク質栄養を把握することが可能となります。

脱水状態をみる項目

脱水状態だと血液が濃縮しており、本来の検査項目の値がマスキングされてる可能性がでてきます。
・脱水状態:ALB、TP、HB、HT、電解質などが高値

さらに、1回の血液検査で判断するのではなく、経時的な変化などを考慮した上で、身体の状態をみていくことがとても重要であることがわかっています。

血液検査を受けて身体の状態tを数値化=可視化することで、身体にとって本当に有益な健康管理ができるようになります。

臨床研究02

潜在性鉄欠乏性貧血に関する研究

日本人では鉄欠乏性貧血の有病率が依然として高く、特に有経女性では2割に上るといわれています。当研究所では創立当時から鉄欠乏貧血貧血の改善にに関する研究に取り組み、豊富な研究実績があります。さらに私たちは、貧血に至る前の潜在性鉄欠乏状態にも注目し、栄養アプローチに関して啓発していくことで、体調改善に導いています。その診断方法と栄養アプローチの手法においても多くの研究実績があります。

ここで栄養アプローチによる統計解析について報告いたします。

研究

期 間
2008年1月~2013年7月末日
対象者
血液検査を受けた20~49歳の有経女性、計2,549名(妊娠中の女性は除外)。
年齢の平均値±標準偏差は、摂取群38.1±7.5歳、非摂取群36.0±7.7で、摂取群が非摂取群を上回り(P<0.001)、出産歴、婦人科疾患の病歴について両者に差はなし(P=0.052)。,549名(妊娠中の女性は除外)。
方 法
期間中に血液検査と栄養アドバイスを受け、アドバイスを元に栄養アプローチを実施していた方1,415名を摂取群とした。また同じ期間中に血液検査を初めて受け、その時点でサプリメントの摂取がない方1,134名を非摂取群とした。血液検査結果は調査期間内における最新のデータを用いた。

貧血者の割合を摂取群と非摂取群で比較

図:ヘモグロビン各カットオフ値未満の割合

① ヘモグロビン11.0g/dL未満の割合は、摂取群に対し非摂取群が有意に高かった(P<0.001)。
② カットオフ値を、有経女性の目安である12.0g/dL未満とした場合、13.0g/dL未満とした場合についても、貧血の割合は非摂取群で有意に高かった (P<0.001)。

摂取群と非摂取群で、未産、経産によるヘモグロビンの平均値

① 摂取群では、未産婦と経産婦に差はなかった。
② 非摂取群では、経産婦のヘモグロビンは未産婦に比べ低値だった(P=0.01)。
③ 未産、経産によらず、非摂取群のヘモグロビンは摂取群より低値だった(P=0.01)。

摂取群と非摂取群で、未産、経産による血清フェリチンの平均値

① 摂取群では、未産婦と経産婦に差はなかった。
② 非摂取群では、経産婦の血清フェリチンは未産婦より低値だった(P=0.01)。
③ 未産、経産によらず、非摂取群の血清フェリチンは摂取群より低値だった(P=0.01)。

血清フェリチン値の分布

非摂取群
摂取群

図:血清フェリチン値の分布

① 非摂取群の血清フェリチン分布は低値側に偏っていた。10 ng/mL未満のものは全体の20%、30 ng/mL未満は60%存在した。
② 摂取群の血清フェリチンは30〜40 ng/mLをピークとする正規分布を示した。10 ng/mL未満のものは3.5%、30 ng/mL 未満は26%であった。

結語

以上より、有経女性に高頻度にみられる鉄欠乏性貧血に対して、栄養アプローチが有効であることが確認されました。

特に有経女性の血清フェリチンの分布は低値側に偏っており、10mg/mL未満のものも多く存在していたことがわかりました。栄養アプローチにより、血清フェリチンの分布が是正されることが確認されましたが、摂取群においても血清フェリチンの個人差は大きく、これにはサプリメントの摂取状況や食生活、そして月経量が関わっているのではないかと思われました。

治療法などは日進月歩、変化していく可能性があります。一方、病気に対する臨床アプローチが変わったとしても、栄養アプローチの重要性は変わることはないと確信し、引き続き研究に取り組んでまいります。

臨床研究03

ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療の成否と栄養状態の関連性

昨今、ヘリコバクター・ピロリ(Hp:ピロリ菌)に感染することで胃粘膜に障害が起き、胃・十二指腸潰瘍や胃がんの原因となることが世界中でもコンセンサスを得ています。日本国内においては、ピロリ菌感染による慢性胃炎に対する除菌治療の重要性が理解され、ようやく2013年に保険適用となりました。

一方当研究所は、その20年も前からピロリ菌除菌の重要性について着目し、研究を進めてまいりました。中でも、ピロリ菌研究の権威であるバリー・マーシャル博士とは親交があり、博士がノーベル賞を受賞される以前より、研究成果についてディスカッションを行ってまいりました。

ピロリ菌除菌研究に対する研究業績に対してマーシャル博士から頂戴した感謝状

マーシャル博士とピロリ菌の研究 当研究所での歩み

ピロリ菌除菌検査と治療が保険適用になったとはいえ、治療内容が画一的であり、保険治療内で使用できる抗菌薬が限定されます。

そこで当研究所は、より高い除菌成功率を達成できるようなプロトコルについて研究を行いました。検査項目について保険適用項目以外についても引き続き検討し、除菌効果を高めながら、除菌治療による副作用の軽減を図ったタンパク質、ビタミンA、食物繊維などを用いた栄養アプローチを追求してまいりました。

今後もより多くの方の健康管理に役立つ臨床研究を続けてまいります。